薬学という、複雑で混沌で、それでいて愛すべき学問について。

はじめに

私は、薬学部という学部に所属しています。

薬学部は、ご承知の通り薬学という学問を学ぶ場所で、自分は色々と策略があって薬学部に入ったわけですが、最近になって、薬学というのはやはりごちゃごちゃしていて、でもそれが素晴らしい学問なのだな、と思うようになりました。

一方で、この感覚がどれだけ他の人と、特に薬学部の外の人と共有できているか、というのは未知数であり、少なくとも薬学に興味がない人が一定数いることもまた理解しています。特に薬学に振り向いてくれる必要はないのかもしれませんが、ただ、自分の感じた薬学の「ありのまま」を明文化しておく、というのは、意義ある試みであるか、あるいは愉快な試みであろうと考え、この文を執筆している次第であります。

 

と、仰々しい大義名分を並べ立てたところで、もう少し個人的な動機について書き連ねておきましょう。

1.薬学を通して、自分の好きなものを理解する

表題の通り、私は薬学という学問がそれなりに好きなわけですが、これには自分が薬学というものをどのように捉えているか、という要素が少なからず絡んでくるはずです。そのために、「何故薬学が好きなのか」を理解するためには、「薬学をどのように捉えているか」を議論する必要があると感じました。

本稿では、薬学についての認識を整理した上で、自分が何故この学問を好いているのか、という点について取り上げます。

2.薬学を通して、自分の(暫定的)科学観を整理する

詳しくは後述しますが、薬学というのは結構色々な学問分野が含まれていて、それについて分析したら科学に対する見方を表明することにならないだろうか、という試みです。自分が科学を好きかどうかは定かではないですが、もしそうであれば1=2かもしれません。

こういう解釈もあるよ、という紹介程度にご覧いただければと思います。

3.薬学に対する幻想を遺しておく

私はまだ学生の身ですから、薬学に対する視点には大いなる誤解が含まれています。そもそも、個人の感想とも言えるこの視点に対して、客観的な価値を付随させることは不可能です。そのため、ここに挙げた内容には「幻想」とも言える事項が含まれていることでしょう。しかし、幻想を残しておくということもまた自分にとっては意義あることです。

薬学という、それなりに社会との接点を持つ学問をしている以上、そこに多かれ少なかれ責任が付随するのは当然のことです。まだ学生身分であることからある程度の免責があるわけですが、今後歳を重ねるに従って、その要請は荷重を増していくことでしょう。その責任を背負うかどうかは個人に委ねられるものであり、また自分がどれほどその責を負うことになる/負おうとするかは現状不明瞭ですが、とりあえずそういうことにしておきましょう。

ここに遺すのは、そのような立場に立った時には表明できないかもしれない「夢」のようなものです。もちろん、責任ある立場に立った時にその「夢」を実現できる可能性もありますが、突拍子もないような、あるいは現実味に欠けるような、あるいは抽象的な事象をあげつらって悦んでいられるのは恐らく今だけです。

そのため、描かれているそれは自分の「薬学の理想像」と読んでいただいても差し支えありません。むしろそれが自分の望む視点かもしれません。全部が全部鵜呑みにできるものではない、ということは言い添えておきます。

 

ここまでお読みいただけていればわかるように、この文は非常に冗長で、かつ個人的なものになる予定です。説明に関してはできるだけ平易になるよう心がけますが、外部の方が読んで愉快なものになるかは正直分かりません。おもろいな、と思ったら最後まで読んでいただけると幸いです。

 

1.薬学部のシステムについて

1.1. 薬学部の概要

薬学について扱う前に、アカデミア薬学の中枢たる、薬学部について少し説明します。

「薬学部です」と言って返ってくる反応として多いのが、「薬剤師になるんですか/ね」というものです。恐らく、特に薬学部に興味がない人にとって、薬学部とは薬剤師を育成する学部であると思います。

しかしながら、必ずしもそうと言うわけではありません。具体的には、薬学部は二つの学科に分かれています。それが下の二つです。

  • 薬学科(6年制・主に薬剤師になるための勉強をする)
  • 薬科学科(4年制・主に創薬研究をする)

基本的に、薬剤師になるためには薬学科に行く必要があります*1。ただ、二つの学科にはこの話だけでは括れないもう少し本質的な違いがあるので、まず二学科の相違について次節から扱うことにします。

1.2. 薬学科

薬学科は、学部課程6年+薬学博士課程4年で構成される学科です。

大学によってはこの学科しか設置されていないところもあり、いわゆるイメージ通りの「薬学部」、すなわち薬剤師を育成する学部ということになります。薬剤師、というのは医療従事者で、それなりに数がいないと困るので*2、薬学科しか設置されていないところも諸々ある、という解釈であると思います。

大学の機関であることから、研究活動も行われているのですが、その範囲は非常に多岐に渡ります。ここでは、「薬科学科」と対比する形でその内容を挙げてみましょう。

「薬学」という学問を俯瞰すると、「科学」でない領域がそれなりに存在します。公衆衛生や法整備、医療統計などがそれにあたります。いわゆる「社会学」なんかに分類されるものです。そもそも、薬剤師が行う「処方」という行為自体も、その根拠は科学に立脚しているにせよ、方法については「科学」に分類されない、という意味でそこに当てはまるのかもしれません。

先ほど、薬学のことを「社会との接点がある学問」と表現しましたが、その「社会との接点」部分を担っているのがこの学科とも言えるでしょう。言うなれば薬学の「外堀」です。当然、医療行為は社会的な行為ですから、そのシステムや現状を分析・整備することは非常に重要なことで、そう簡単に埋めてはいけない領域であることは言うまでもないでしょう。

1.3. 薬科学科

薬科学科は、学部課程4年+修士課程2年+博士課程3年で構成される学科です。

創薬科学科、と呼ばれることもあります。こちらの方が意味の通りが良いですね。「創薬」に関する「科学」について勉強・研究する学科です。「薬を作る学科」と言っても差し支えないでしょう。

しかし、その内実はとても複雑で、薬に関わる化学・生物・物理などの分野が幅広く、かつ横断的に扱われているのが特徴です。基礎から応用まで、すなわち薬に直接関わらないような内容を研究しているところもあり、一つの学科ですが振れ幅は一つの学部並みです。

薬はないと処方できないので、薬学界の根幹を支える学科ということができるでしょう。学部内外を問わず共同研究が盛んで、人体に関わる事象の発見や、問題の解決など様々な分野に手を伸ばしています。人体に係る化学物質繋がりで、化粧品なども薬科学の守備範囲です*3

まさに振れ幅最強学科と言えるかもしれません。

2.薬科学とは

さて、ここからは薬学について詳らかにしようと思います。

学科説明で軽く述べたように、薬学には「薬科学」と「薬科学でない部分」があり、今回はこの2つに分けて説明します。まずは、比較的掴みやすい薬科学から。

2.1. 総論

薬科学は「薬に関わる科学」であり、馴染み深い高校理科の4科目を用いると、主に化学と生物、そしてそれに付随する物理分野が含まれます*4

化学と生物についてはじっくり扱うことにして、物理についてここで軽く述べておきましょう。物理は、主に「見る」ために用いられます。具体的には、電子顕微鏡や蛍光顕微鏡などの顕微鏡関係、NMRなどの化学分析機器関係、そしてタンパク質結晶構造解析などの、解析方法の開拓・更新が研究されています。

また、薬学における分析手法として、統計学も用いられています。どちらかというと社会薬学の文脈で用いられるため、薬科学の領域に含まれることは少ないですが、科学の一分野として挙げておきます。

2.2. 化学と生物ー遍在性と階層性

さて、化学と生物について、どのような「構造」を持っているかを最初に述べたいと思います。

まず、薬学という文脈において重要なのは、「基礎研究」と「臨床」です。ここでは、このまま「基礎研究」と「応用」と読み替えてもらっても構いません。これを用いると、薬科学で扱う諸分野は、生物ー化学と基礎ー臨床という2軸に従って分類することができます。

当然各分野に関しても、軸を跨いで研究が行われることがザラです。例えば、免疫学は薬学における主要なトピックの一つですが、「免疫システムについて解明する」という意味では基礎研究よりですし、「解明した免疫システムを用いて薬を作る」という意味では臨床寄りととることもできます。また、免疫は生命科学的事象*5であるわけですが、免疫がどのように成立しているか、ということを考えるには化学的な視点が必要です。そのために、化学ー生物という軸も容易に飛び越えられるものである、ということも言えるはずでしょう。

 

ここでは、簡単にそれぞれのエクストリームな例を紹介したいと思います。

生物+臨床

臨床寄りの生物としては、「生理学」と「病理学」が二本柱になっています。薬学部ではあまり扱いませんが、ここに「解剖学」が加わることもあります。

「生理学」は主に健康な人の体内システムについて*6、「病理学」は主に病気の人の体内システムについて扱うもので、理論上この二つを合わせれば全ての人について網羅できるということです。

生物+基礎

基礎寄りの生物は、「細かいもの」と「抽象性が高いもの」の二つに分けることができます。

「細かいもの」としては、体内システムの一部を切り出して考える「免疫学」や「遺伝学」「発生学」などなどが挙げられます。これは先ほど述べたように、臨床寄りの志向を有する学問であると言えます。

「抽象性が高いもの」としては、いわゆる「生命科学」で、「分子生物学」などと呼ばれるものです。一般的な細胞の働きや、体内での活動について扱うのがこの分野だと言えます。

化学+臨床

ここは薬学における非常に特徴的な部分でしょう。「薬理学」「薬物動態学」「薬力学」などがここにあたります。

「薬理学」は薬がどのようなメカニズムで効くか、という内容であり、生物にも化学にも係る学問領域ですが、その内容には化学構造が非常に重要になるので、便宜的に化学ということにしましょう。

「薬物動態学」や「薬力学」は、薬がどの程度効くか、という内容です。化学反応の速度などを用いて、薬物を投与した際に体の中でどのような動きをするか、ということについて学びます。

化学+基礎

基本的には「有機化学」が扱われます。薬の多くは有機物であり、それを作るには有機化学の知識が必要不可欠だからです。また、人体も一種の有機物なので、上に挙げた「薬がどのようにして効くか」を考えるには有機化学的な視野が必要になります。

少し特殊な例としては「分析化学」と「放射化学」でしょうか。前者は化学物質をどのように「分析」するかを扱い、作った化合物を分析したり、薬物が適切に作成されているかを分析する、といった内容に寄与しています。後者は、放射線治療や、生命科学放射性同位体を用いた分析などに役立てられています。

 

以上の内容を図にまとめると下のようになります。もちろんこれらは薬科学で扱われる諸学問のうちの数例に過ぎず、薬学はもっと広く、細かく広がっています。

だいたいこんな感じ。

ところで、上の図を見ると

  • 生物は基礎が化学寄り/臨床が生物に振り切れている
  • 化学は臨床が生物寄り/基礎が化学に振り切れている

というトレンドが見えてくると思います。もちろんこれは恣意的に図を作っているわけですが、このトレンドが発生する裏側には、生物・化学という学問領域が持つそもそもの階層性が存在します。

基本的に、科学の諸学問において「完全に独立した領域」というのは存在しません。「大学に入ると、生物は化学に、化学は物理に、物理は数学に、数学は哲学になる」とはよく言ったものですが、実際これらの学問は、相互に持ちつ持たれつで成立しています*7。))。

科学全体の話をするとこれまた長く、煩雑になってしまうので、化学と生物の関係性だけ抜き出して考えましょう。ざっくりと、以下のようなことが言えるでしょうか。

  • 生物は分子でできているから、生物の作用について理解するには化学が必要
  • 逆に、化学を生命現象に応用するには、生物の観念が必要
  • 生物の中にも、化学では説明できない領域が存在する

前の二つについては、生物と化学との直接的な関係性に言及したものです。「生物」というのは、この世に存在する/したもののうち、「生きている」ものを扱う学問です。一方「化学」はより一般に、世の中に存在する物質について考証するものですから、この時点で化学→生物の具体化が見えるかと思います*8

我々人類を含め、生物とは化学物質の集合です。よって、生命現象について理解するためには、化学反応や化学的性質について理解する必要があるわけです。例えば、我々が物を食べ、それを消化し、体の中で栄養として利用する過程には、無数の化学反応が関係しており、それについて正しく理解するには、それぞれの「化学」反応について「化学的な」分析を加える必要があるということです。

逆に、薬などの形で化学を体に作用させたい場合は、生命科学の知識が必要となるわけです。生命は非常に複雑であり、その理論体系について整理しているものが生物学と言えるでしょうか。

なお、最後の点で述べたように、生物の中でも化学が直接は関係のない領域が存在します。例えば「生態学」、そして「進化学」です。これらは系がマクロであることと、化学物質による寄与ではないことから、あまり化学が立ち入ることはありません。しかし、生態学に出てくるフェロモンには化学の知識が応用されていたり、進化学について化学的に遺伝子を分析したりするなど、連関が全くないということもありません。

 

このようなトレンドを基に、もう一度上の図に立ち戻ってみましょう。

そもそも、化学は「基礎寄り」、生物は「臨床寄り」という学問領域であることから、化学における「臨床より=生物寄り」、生物における「基礎寄り=化学寄り」ということが理解できると思います。

また、「分子生物学」について、生命科学のうち「一般的なもの」と書きましたが、これは化学の知識を「あからさまに」用いているということです。名前に「分子」と入っているように、化学物質の動きとして生物の作用を一般的に捉える、といった内容を学ぶわけです。

「薬理学」や「薬物動態学」は、先ほど話した「化学を生物に適用する」領域です。薬が志向していることの根源はここであり、これは薬学が生物・化学を幅広く、深く扱っている理由でもあります。

一方で、「生理学」「病理学」という分野は、生態学ほどではないですがマクロな分野であり、そろそろ化学では手が届かなくなってきます。もちろん、生理的な作用・病理的な作用も化学反応によってもたらされますから、完全に無関係であるわけではありません。

有機化学」についても同様に、こちらは一般的であるあまりに、生物とは関係ない部分や、より基礎的な部分をも扱います。このうちの一部が生物に適用されて、様々な事象の理解や薬の製造に役立っているわけです。

 

以上が生物と化学についての概観であり、次節からはそれぞれについてもう少し深掘りしていくことにしましょう。

2.3. 薬学における化学

再三述べてきた通り、薬科学の中での化学は、専ら有機化学と言って差し支えありません。

化学の中には、炭素を含む化合物を扱う「有機化学」と、炭素を含まない化合物を扱う「無機化学」があるわけですが、生体内に存在する物質は、一部のイオンを除いてほとんどが有機化合物です。そのために、有機化学について学ぶことが重要になってきます。

反応と性質

化学、というと化学構造式や、華やかな化学反応を思い浮かべる方が多いでしょうが、化学には「反応」に加えて「性質」を知る、という重要な役目があります。

「反応」についてはこれまでに色々と書いてきたので良いでしょう。日々の生命活動は化学反応であり、病気も化学反応であり、それを治す薬もまた化学反応です。

対する「性質」もまた薬において重要な要素となります。「性質」とは、その分子がどのような形をしているか、周りの分子とどのように相互作用しているか、水に溶けやすいか、などなどについてを指します。

有名な事例が、「サリドマイド薬害」*9で、直接的な原因は当時の薬をめぐる社会システムにあるわけですが、その化学的な要因は、サリドマイドという薬には2種類の立体構造を持つ分子が混ざっていたことにありました。このように、安全な薬を作成するためには、その薬に対する化学的な知見の集積もまた必要である、ということです。

薬理学

薬理学は、薬学を代表する学問領域の一つですが、この分野は化学と生物がまさに混じり合った学問領域であると言えるでしょう。であるにも関わらず、今回この領域を化学の一分野として扱っているのは、「構造活性相関」という重要な概念が存在するからです。

薬がどのような効果を発揮するかは、その構造によって決まります。薬が体内のなんらかの分子と反応することで、薬効が生じるからです。これは、例えば「似たような構造を持つ分子は似たような効果を持つ」などということが言えるわけで、このことを「構造活性相関」と言います。

この性質を用いると、「似たような構造の分子を色々作ることで、似た効果を示す分子のレパートリーが増える」ということを意味します。構造が似ていても、違いがあればその薬効や副作用に違いが出ますから、より効きやすく、かつ副作用が少ない薬を作成する上で、構造活性相関や、それを応用した有機化学が重要になってきます。

現在用いられている薬のうちの多くは、天然物、すなわち他の生物が産生する化合物や、その構造を少し変えたものです。このような探索ができるのも構造活性相関という性質の賜物であり、かつそれについて分析できる有機化学という学問の賜物というわけです。

天然物化学

ここで「天然物」というワードが出てきたので、それについてもう少し補足をしておきましょう。

これまで多くの薬の種になってきた、という意味で、天然物は薬科学にとって非常に大きな存在です。生物と化学の関係について散々述べましたが、この意味でも生物と化学は、薬学の文脈で絡むことになります。生物由来の薬を、化学の力を用いて分析し、さらに使いやすいようにカスタマイズしていく、という考え方です。

先ほどは、「生物を化学で説明する」あるいは「化学を生物で応用する」と言ったことを書きましたが、ここでは逆に、「生物を化学で拡張する」と言った営みになるでしょうか。このような視点は薬学ならではであり、かつ薬学の面白い部分の一つでもあります。

そのため、薬学部は天然物化学の最前線の一つであり、日夜天然物に関する様々な研究が行われています。

天然物化学では、以下のような3サイクルで物事が進行していきます。

  • 天然物を「取ってくる」
  • 天然物を「合成する」
  • 天然物を「応用する」

「取ってくる」は生物寄りの領域で、植物や動物、菌類から活性のある物質を取ってきます。生物の体から化合物を抜き出す際には、化学的な操作を必要とすることもあります。

「合成する」は、生物の力なしに、あるいは力を借りて、人力でその化合物を作ろうとする試みです。そもそも、作ろうとする物質の化学構造を調べるところから話が始まり、どのように合成するかを考え、より効率の良い合成ルートを探索していきます。非常に手間のかかる部分である一方、「有機化学の花形」とも呼ばれる領域です。

「応用する」は、上に述べたように化合物の形を変え、より「都合の良い」ものを作ろうとする試みです。薬として働く部分を残しつつ構造を変える必要があるので、この段階も繊細かつ難易度の高いものとなっています。

この部分については、生物が絡みながらも有機化学色が非常に強く、そのために薬学部の中には有機化学の先進的な研究をされている先生が所属されていることも多いです。

薬物動態学

最後に薬物動態学について。この分野はこれまでと少し毛色が違い、いわゆる「物理化学」と呼ばれる領域に属します。

物理化学は、化学反応や化学的な状態を、物理を使って表し、一般化しようという学問領域で、薬物動態学では、薬物が効く速さや、薬物の効果がなくなる速さなどを、化学反応の一種として分析し、効き目について考えることを目的としています。生物に係る物理化学分野であることから、「生物物理化学」と呼ばれることもあります。全部乗せみたいでかっこいい。

内容としては計算することが多い物ですが、実は化学の中では臨床で最も良く用いられる分野で、「副作用を出さないように薬品の効き目を保つ」ために、薬物動態の分析は必須の作業になっています。ここを間違えると毒性によって体を壊したり、命に関わることもあるので重要な分野の一つとして数えられます。

ちなみにとっても難しい。

まとめ

では、この節をざっくりとまとめておきましょう。

ゴテゴテしててごめんね

大前提として、化学を「応用」したのが生物です。すなわち、この図のさらに上部に「生命科学」があると思ってください。

 

上の図は見ての通り、下が基礎、上が応用といったふうになっているのですが、薬学における化学は全体的に階層性がわかりやすく、まさに「積み重ねられて」できているんだなということがよくわかります。

2.4. 薬学における生物学

薬の対象は生物であるので、薬科学においても生物は中心的な役割を果たしています。同時に、薬学について学ぶことは、生物学について様々な側面から学ぶことになるのです。

薬科学は生物で"満たされている"

生物学の「大きさ」スケール

生物学を分類する方法は多々ありますが、最もわかりやすいのが大きさです。生物の構成は、ざっくりと下のようなスケール感になっています。

生物群>個体>器官・臓器>組織>細胞>タンパク質・分子>原子

このうち薬学で扱うのは大体個体〜分子くらいのサイズです。

先ほど「分子生物学」というワードが出てきましたが、生物学には、これらの大きさに対応した学問分野が存在していて、

生態学>生理学>形態学>細胞生物学>分子生物学

のように分類することができます。

先ほどの図に立ち返ると、小さい方が基礎寄りで、大きい方が臨床寄りであることがわかると思います。これは大きいと化学で扱いづらく、小さいと化学で扱いやすいというトレンドと地続きであり、話の一貫性を見ることができます。

また、このトレンドは一般性の議論にも見ることができます。分子的な構造や、体内での反応については生物種間で共通しているものもままありますが、臓器レベルになってくると、生物によってまちまちとなることが多いです。そのため、人を主な対象とする薬学部では、ヒトに絞った生物学を学ぶことが増えてきます*10

薬学における生物の「機能」スケール

もう一つ、「細かいもの」という指標についても書いておきましょう。免疫学や遺伝学は、体内システムの内一部を切り出したもの、と書きました。体内で起こることは、多くはその分子的メカニズムが原因になりますが、病気などの形で問題になるのは、臓器や個体レベルでその影響が出てきたときです。

そこで、分子レベル〜臓器レベルにわたって、幅広く事象を整理する必要があるのですが、そのためには個体の中での「機能」を中心に物事を整理するのが効果的です。免疫などに顕著ですが、このような例には、物質そのものの性質や、単独での反応ではなく、物質同士の相互作用を見たり、物質から成り立つシステムを俯瞰したりするものが多いです。

この視点は、薬学の中では生物ならではと言えるでしょう。化学では、もちろん溶媒との相互作用などがありますが、基本的には要らぬ相互作用がない方が良いという実験系を用いています。ところが、生物における相互作用はすでに「ある」ものなので、それについて考える、というのが生物の面白いところでもあるわけです。

病理学や生理学といったものも、免疫学や遺伝学とはスケールが異なりますが、概ね同じような放言をすることができるでしょう。すなわち、病理学や生理学は組織同士、器官同士、臓器同士などといった、体の中の「各パーツ」をシステム的に捉え、その正常性の定義や異常性の定義をするのがそれらの学問の役目です。

生命科学における「正常性」は、「恒常性」という学術用語*11で解されますが、薬学における生命科学はまさに恒常性の学問と言えるかもしれません。なぜならば、薬とは恒常性を取り戻したり、あるいは必要に応じて恒常性を「崩したり」するものだからです。

「薬」と生命科学

生命科学的な知見は、薬の効果や、薬が対象としている疾病、体内の機構に関しての知識を深めることに必要であることはもちろんですが、より直接的に医薬品へ適用されることもあります。

「医薬品」と聞いて想起されるものは、錠剤や粉薬といったものであると思われます。これらは、一般的に低分子化合物、すなわち構造が比較的単純な化学物質から成ります。ざっくり、化学構造を紙に書いてください、と言われた時に書けるレベルのものです。
ところが、医薬品にはもっと「大きい」化合物から成るものもあります。

細胞>抗体>タンパク質>分子

これは先に挙げた「生物におけるオーダー」を少しいじったものですが、ここに挙げたものは医薬品として使われるものでもあります。

タンパク質、は最もわかりやすい例です。タンパク質はアミノ酸がたくさんつながって形成される化合物であり、アミノ酸の構造を用いて化学構造を確かに示すことができます。しかし、つながっているアミノ酸の数が100個や200個や、さらに多い化合物もままあるので、この構造を紙に書き起こすことは現実的ではありません。このようなでかい化合物のことを「高分子化合物」と呼びます*12

低分子化合物は、構造も比較的容易であることから、その作成や、反応についての解析は化学が主戦場となります。しかし、高分子ともなると化学的な作用だけでは解析が難しくなるため、生命科学的な知見が重要になってきます。特にタンパク質については、生体内の物質をそのまま取り出したり、そのお仲間を使っている関係から、生命科学の視点が重要になることは言うまでもないでしょう。

さらにオーダーの大きいものとして「抗体」が挙げられます。最近は抗体医薬がなかなかhotなのですが、これはタンパク質がいくつかつながったものであり、タンパク質よりさらに大きい物質です。これは、免疫学の分野で学ばれるものであり、我々の体の中で日々がんばっている物質なわけですが、病気から我々を守る免疫それ自体を薬に使おう、というのが抗体医薬です*13
さらにさらに「細胞」自体を薬につかおう、という例もあり、ここまでくると本当に「生命科学」というフィールドです。実際、抗体を用いた薬や細胞を用いた薬などを「生物学的製剤」と呼称することもあります。

まとめ

生命科学は、薬学の根幹をなす学問であり、薬科学あるいは薬学をする以上、生命科学的な知見や解釈、表現は必要不可欠であると言えます。

これは、医薬品の開発や運用にも必要な知識ですが、医薬品それ自体にも生命科学が用いられています。生命科学については幅広いオーダーや分野について知識を得ることが必要です。

3.薬学とは

薬学というのは、これまで述べてきた薬科学という観念よりさらに抽象的な概念です。ここでは、ざっくりとその解釈を述べるに留めますが、概念としてはもっと掴みどころのない、雲のようなものであると認識しています。

3.1. 薬を「使う」ということ

薬学は、薬を使うための学問である、と僕は考えています。薬を使うには、だいたい以下のようなステップが介在しています。

  1. 病気についての知見を収集する
  2. 薬を開発する
  3. 薬を生産する、流通させる
  4. 薬を処方する
  5. 患者が薬を飲む

1に関しては医学、病理学が、2はもろに創薬科学がその役を担っており、薬学の中でも「薬科学」という分野に集約されるものであるでしょう。

ここで本題となる、「薬学であって薬科学でない部分」は3以降のステップということになります。これらのスキームを回すためには、化学・生命科学だけでなく、社会科学的な発想も必要となります。以降では、これらのスキームごとに薬学について具体的に参照することとします。

3.2. 薬の生産と流通

薬を「製造」する

どこまでを薬の「生産」とするか、というのもまた難しい問いなのですが、とりあえず開発段階でそれなりに作るべきものは決まっていることとしましょう*14。医薬品とて工業製品なので、基本的には工場で機械を用いて製造することになります。しかし、一般的な工業製品とは異なる点が二つあります。

製造にかかる点としてはそのうちの一つ、「衛生管理が重要」という点が挙げられます。身体の中に入るどころか、身体の中で何らかの作用を及ぼすことになる物質ですから、その品質管理には万全を期す必要があります。先のコロナワクチンでは、一部のロットのみに不純物が見つかった、みたいな騒ぎもありましたが、多くの量を生産する中では、そういうことにも気を配らなければならない、ということでもあります。

先に挙げた生物学的製剤、コロナワクチンもそうでしたが、このような刺激に対して弱い物質は、温度管理など気を配らなければならない事項も増えます。製造過程では様々な事項について考えつつ生産をしなければならないということです。

薬を流通させる

医薬品が他の工業製品と異なる点のもう一つは、「価格を企業が決められない」という点です*15。薬には「薬価」というものが国により定められており、その値段で販売を行う必要があります。一方で企業は企業であるために、開発費の回収*16をしなければなりませんし、企業が立ち行くように利益も出さねばなりません。その辺りのバランスを考えつつ薬価というものは定められるのであり、ここで薬は社会と接点を持つこととなります。

一方で、薬が用いられるのは病院であり、また薬局です。薬というのは使用期限があるために、必要以上に入荷をするわけにもいかず、逆に必要になった時に薬が無い、という事象が発生しないように常備を必要とするものもあります。その辺りのバランスを考えるのは病院や薬局にいる薬剤師の役割であり、また「どの薬を入れるか」というのは、企業や行政、研究機関の出す資料から、これまた現場の人間が判断することとなります。

(これが非常に難しい問題で、要するに「患者にとって最も良い選択肢」を取れるように現場の薬剤師はどの薬を用いるか決定する必要があり、一方で企業は自社の利益が必要であるために、薬を「売り込まなければならない」というジレンマが生じます。当然ここでややこしいことになっては医療倫理に反するので、第三者的にイーブンに判定しましょうね、という観念が存在します。これを「利益相反」と呼びます。医学・薬学に特有な捉えづらい概念です。)

この時点で、薬学には「社会学」の観点が取り込まれることになります。

3.3. 薬を処方する

「薬学」のメイントピックの一つはここでしょう。日本においては処方箋を出す、すなわち薬の処方に対しては医師が権限を有しますが、薬剤師もまた、薬の処方を実際に行うものとして同様かそれ以上の権限を有しています。

薬を処方する、という行為は、薬学において最も「臨床的」な行為です。基本的な観点は、「患者にとって最良の選択をする」というものであり、これに従って薬の処方をすることが必要不可欠となります。

そもそも薬を処方するべきか否か、という分岐も発生しますが、一度それは脇に置くとして、薬を処方するためにはどれだけのことを考えなければならないのでしょうか。

「薬がどれくらいよく効くか」というのはもちろん重要です。これは生物学的・化学的知見、あるいはこれまでに上がってきた臨床例をもとに判断され、また処方されたのちもきちんと経過を観察することが必要となります。これと同じくらい重要なのは「薬がどのように効くか」という点です。わかりやすい例は副作用であり、同じくらい効く薬であれば副作用が少ない方が良いわけです。同様に、患者に合併症がある場合は、その病気を悪くしないかにも注意が必要となります。すなわち、薬を処方するには、その薬の効果、作用機序について包括的に理解をすることが必要となります。

「薬の投与がどのように行われるか」も重要なファクターの一つです。薬の投与頻度はどれくらいか。経口投与、すなわち「飲む」だけで良いのか、注射が必要なのか、あるいは坐薬なのか、などなど、これらは「効きやすい投与方法」について検討する必要もありますが、患者の環境的に投与が可能なのか、あるいは心理的なハードルはどうなのか、など様々なファクターについて考える必要があります。

これらの事象を解決するためには、患者と健全なコミュニケーションを取ることが必要になります。まあ当然のことですが、この「臨床的」な視点も、薬学を学ぶ上では必要となる、ということです。
現場においてこの視点が重要となるのはもちろん、バックの、いわゆる「薬科学」的な部門にもこの考え方を援用することは必要でしょう。ここでは薬科学と臨床をある意味「対比的」に描いていますが、このギャップを埋めるという試みは、臨床の視点を科学に持ち込むことで他生されるものと考えられます*17。薬学のコアの一つはここにあると思います。この話は後でもう少し。

3.4. 薬を飲む

服薬指導、という言葉がありますが、薬は適切に服用しないと聴かないどころか、身体に害をなす可能性すらあるので、適切な薬の服用を促すのも薬学の役目の一つです。

これは、医師・薬剤師によるアドバイスや、行政による呼びかけなどのソフト面の対策から、薬それ自体の設計を考えて、適切に飲んでもらいやすくする工夫を設けることもあります。ここには、行動学的な観点が援用されていることになるでしょう。

さらに、薬による副作用をモニターすることも必要となります。薬物動態学について、「臨床でも用いられる分野」と記述しましたが、ここで役立ってきます。上にも書いたように、患者は薬の対象としている他に疾病を抱えている可能性もあり、その影響で薬の作用が、想定とは異なる可能性も十分にあります。そのために、特に作用が強い薬や、リスクのある患者については、投与後の薬の動きをしっかりと追う必要があります。

3.5. まとめ

問題は、ここまで述べた内容は全て現実にあるものであり、机上の勉強だけではどうにもならない、ということです(いわゆる「現場で起こっているんだ!」というやつですね)。

薬学というのは、薬科学と社会との前線、というものが包摂されています。もし科学と現実社会が対比されるものであるのならば、その境界線の一部が薬学に埋まっている、と言えるかもしれません。

応用科学的な視点に立つのであれば、このギャップを埋めるというのが薬学の役目であると考えられます。さて、この記述は先ほどもしましたね。すなわちこれについては次章にて詳しく述懐されるということです。

4.なぜ、薬学をするのか

冒頭の繰り返しになりますが、この内容はあくまでも個人的な内容であり、所属する団体、あるいは薬学という立場を代表する言説ではないことを最初に断っておきます。

4.1. 薬学的科学観

自分が薬学をしている理由の一つが、薬学の中にある科学の立場が自分の好みである、というものです。薬学の中で科学がどうあるか、ということについては上につらつらと書いたので、もう一度繰り返すようなことはしませんが、僕の好きな科学、という視点を補足しておきましょう。

僕は元々、化学と生物の交差点を目指して、薬学部に入りました。自分が指向していたのは天然物化学であり、天然物化学において覇権を握っている薬学部では、自分の望むような研究ができるのではないか、と考えたからです。
この裏には、化学だけではなく、生物もやりたいな、という思考があったものと推察されます。特に高校の頃生物が好きだった、という記憶はないのですが、大学に入って化学に立脚した生命科学を扱ううちに、分子生物学的な物の見方にも興味を抱くようになりました。

こういった人間にとって薬学部は適している場所です。特に「生物」と「化学」を重点的に扱うような学部として薬学部は代表的であり、かつ薬のような分子を扱うために、その視点は自ずと化学や分子生物学が中心となるからです。

ところで、自分が興味のある分野は、必ずしも「化学/生物の越境」を意味しません。むしろ、化学と生物の間、あるいは化学→生物という記述が正しいように思えます。
いわゆる「理系」の科学は「自然(natural)科学」と「応用(applied)科学」に大別できます。化学は、自然科学と応用科学のいずれの分野も内包すると同時に、「自然科学でも応用科学でもある」というふうに考えています。これは、化学だけでなく、他の領域にも当てはまる事項かもしれません。
そして、薬学という学問領域においては、「化学→生物」という科学が、その要素を非常にわかりやすく反映しています。薬学の対象たる疾病は生物学的である一方で、そのメカニズムや、あるいはそれを治すための薬剤は化学的に開発されうる、というのは上に散々書いた通りですが、それはまさに、「自然科学=疾病や化学物質の基礎研究」であり「応用科学=創薬」であるはずです。

この意味で、薬学、ここでは薬科学と呼んでも構わないかもしれませんが、科学というフィールドを「生物ー化学」を軸にして大胆に切り取り、その関係性をヴィヴィッドに投影しているものであると僕は考えています。

4.2. ヒト/人という系での科学

さて、上に挙げた要素をもう少し具体化してみましょう。

ヒトは生物であり、かつ社会の構成要素であるとも捉えられますが、薬学は、それら双方の要素に関して、「間に入って」科学を扱うことになります。

生物学的ヒトの中での薬学、というのは、まさに薬学そのものであると言えるでしょう。薬というのは、主にヒトの体の中で機能するものですが、ヒトの体の中というのは、自然の中でもトップレベルの複雑性を有する系の一つです。その中で、あらまほしき機能を発揮するための薬というのは、非常にセンシティブな科学に立脚しているはずです。

一方、社会の中での科学、というのは、例えば「実装」という言葉で表されるものですが、上記したような薬の「処方」「流通」といったものがそれに当たるでしょう。自分は、法をはじめとした、社会を成すシステムも好きなので、薬学はそのフィールドとしてうってつけの分野の一つではないかと思います。

「社会の中での科学」と書いていますが、あるいはこれも「科学」の一片と捉えうるものかもしれません。上記したような、応用科学による科学の社会への適用は、科学が社会にて利用されるという前提を踏まえると、科学による一定の責任で行われるべきであると思われるからです。*18そして、人の健康に関わる薬というものに関して、その要素がシビアであるということは言うまでもありません。

この意味で、薬学を「俯瞰する」という態度が、自分が理想としているものの一つです。創薬や、その基礎にある化学や生命科学に対する興味と同時に、薬の運用、というところにも一定の興味があるのは事実であり、そのために薬学部に所属していると言えるかもしれません。

また、言い換えれば、「臨床」というフィールドは「科学」と「社会」の境界に位置していると考えられます。臨床、すなわち患者さんは、現代医療においては「科学的な」アプローチを取られることが一般的です。治療、というのがそういうことであるとも言えるでしょうか。
一方で、臨床は「所与の」と述べたように、科学では手の届かない、既存の理論の外側にあるかもしれない存在です。特に化学や生命科学は、新規的な「事実」に弱い傾向があると思っています。その弱みを、実際にあったこととすり合わせることで超越していける、というのは、薬学という限られた系における一つの魅力なのではないかと思います。

4.3. 薬というものの複雑性

これまでに挙げた内容の「逆」と言えるかもしれません。薬そのものにも複雑性があります。その起因の一つは、前述したような生物学的ヒト体内環境の複雑性です。そのために、意図していなかった反応や相互作用、あるいは反応の減衰が起こり得るという点であり、これは上に述べた要素です。

対して、薬の成分自体にも複雑性があります。薬はいわゆる「有効成分」のみにてできているわけではなく、その薬物の作用を調整するために、さまざまなものが含有されています。その好例が「生薬」「漢方薬」であり、これらは天然の生物を「そのまま」用いているために、その作用は非常に複雑なものになることが知られています*19。これをコントロールするにはまた、生命科学や化学に対する理解が必要になります。

面白いことに、これらの内容は、科学的な研究にて明らかにされることですが、実運用上においては、法令をはじめとする社会的システムによって制限されています。「日本薬局方」がその好例であり、薬の内容物やその濃度・純度などのプロファイルは厳格に運用されています。この意味でも、科学と社会への架橋は不可欠な要素であると言えるでしょう。

5.最後に

感想文をさっくりと書くつもりが、非常に入り組んだ、またわかりにくい文章になってしまったことをお詫び申し上げます。

これをもとにして「薬学に興味を持ってほしい」「薬学を勉強してほしい」というよりは、「こういう世界観もあるんだな」と感じていただければ幸いです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

*1:以前は薬科学科所属でも、特定の課程を修めれば薬剤師免許を取得できたのですが、そのシステムは近年廃止されました。そのため、薬科学科の先生の中には薬剤師免許をお持ちの方もそれなりにいらっしゃいます

*2:ただし、そもそも医学部の数に比べて薬学部の数は結構少ないです

*3:具体的に化粧品を扱う授業があるわけではないが、事例として紹介されたり、卒業後化粧品を製造する企業に就職したりする

*4:流石に地学をメインに研究している方はほぼいないですが、生薬の一部として鉱物が使われることもあります

*5:ここでは、「生物学」と「生命科学」はほぼ同じ意味で用いています。一応辞書的にはちょっと異なる意味があるかと思いますが、それについては各自で調べておいてください。なお、「生物」には学問領域(=「生物学」の他に、「生きている物」という意味の「生物」(=実態としての生物)があるので、紛らわしい場合はなるべく「生命科学」を用いています。

*6:ただし、「完全に健康な人」というのは存在しないので、あくまで仮想的なモデルということができるかもしれません。「砂山のパラドックス」みたいな感じ。

*7:一応純粋な数学は独立していると言えるかも。数学は科学における「言語」みたいな扱いで、「歴史学者が歴史を読み解くのに言語を使っていて、言語学者は独立に言語について考えている」みたいな認識だと思います((でも言語学者って文化人類学とかに立脚しているのかしら。数学も論理学とかに影響を受けているのでしょうから、実際には完全に独立な学問体系などないのかもしれません

*8:念のため他の領域についても補足しておきましょう。「数学」については上に述べたように言語であり、「物理」はその言語を、現実の法則として記述するもの、そして「化学」は「物理」を実在の「もの」に対して当てはめる学問である、という一連の流れが想像できます。また、「化学」の応用先には3通りあり、人工物を扱う「工学」、天然物のうち、生きている物を扱う「生物」、生きていない物を扱う「地学」とざっくり分けることができるでしょうか。

*9:妊婦がサリドマイドを処方されたことにより、奇形児の妊娠という副作用が続出した。日本における最悪の薬害事件の一つ

*10:他の生物の薬学については、例えば獣医学部における薬理学などで学べることがあります。

*11:体内の様々なスケールで保たれている均衡、あるいはその均衡を保つ機能のこと。わかりやすい例では、電解質バランスや水分量、体温などが上げられる。「ホメオスタシス」とも。

*12:本来「高分子化合物」の定義はもう少しナーバスなものですが、ここではこれでご了承ください。高校化学で扱う「モノマーがたくさん連なったもの(=「ポリマー」)」と「分子量が大きい化合物」という二種類の意味があることだけ附記しておきます

*13:もちろんこんなに単純な思考から生まれたものではありません。ちなみに免疫システムから生まれた薬はこれ以外にも色々あり、「抗生物質」もその一種です

*14:「この物質が病気に効く」ということがわかっても、どの形態で投与するのが適切なのか(錠剤?粉末?吸引?などなど)、大ロットでうまく生産できるか(実験室ではうまく合成できても、工場では合成ができない、みたいなことはままある。これを乗り越えるには工学的な知見も必要)、など、乗り越えるべきハードルはたくさんある

*15:日本においては。以降の内容も全て「日本における」ルールです

*16:一般に医薬品の開発には莫大な資金が必要になります

*17:臨床は「所与」のものなので

*18:逆に言えば、科学がこの実装をスムーズにできなければ、社会に利用されない、という内情も含んでいます。

*19:このために、東洋医学の論理は、西洋医学と全く異なります。